80年代には細野晴臣が参加したB級アイドル・スターボーの「スターボーⅠ」、真鍋ちえみ「不思議・少女」などテクノ歌謡のアルバム名盤などが存在していますが、基本的には単発での起用であり継続して制作されたケースはほぼ存在していません。
松本隆×細野晴臣による怪作 |
アルバムに収録する際にシングルとして先行リリースした楽曲をリミックスして収録するという手法が取られ始めたのが80年代中期頃。
12インチのアナログ盤としてダンスリミックスされた楽曲も数多くリリースされていた時期です。
オリコン1位を獲得した松田聖子の12インチシングル |
80年代後期には小泉今日子がダンスミュージックのハウスの流れを汲んだかなり尖った楽曲をリリース。
ハウス歌謡 「Fade Out / 小泉今日子」 テクノ歌謡 「Wa・ショイ! / 堀ちえみ」 |
後にTRFで活躍することとなるDJ KOOが所属していた「The JG's」という日本で最初と言われているリミックスチームとのコラボ作品として早見優が'87年にオリジナルアルバム「GET DOWN!」リリース。
80年代末期頃からクラブDJとして活動しているリミックスチームがアイドル歌謡の音源を再構築してコンピレーションCDとして発売される傾向が増えました。
「CANDIES BEATS」 (キャンディーズの楽曲をPSY・Sの松浦雅也がハウスリミックス) / 「MIX WAX NAMI NON-STOP」 (島田奈美の楽曲を寺田創一がハウスリミックス)をはじめピンクレディー、中山美穂などのリミックス・アルバムがリリース。
基本的にはリミックス盤という企画モノのために制作されたものであり、唯一オリジナルとして発売されている早見優も一枚限りの限定的なものでした。
そんな中、アイドル「東京パフォーマンスドール」制作クリエイターの中心となって関わったのがDJチーム「MST」に所属していたタシロタカヒロ氏なのです。
DJチーム 「MST」
MSTの活動は1988年~。メンバーは松本みつぐさん、田代隆広さん、JOVi三好さん、川口雅也さん など
MSTの代表作
[作曲]
- HOLD ME TIGHT / Red Monster (CITY HUNTERサントラ収録)
- EXPLOSION / DIGITAL VOLCANO (JULIANA'S TOKYO)
タシロタカヒロ氏が制作に関わっていたことから「Explosion」は東京パフォーマンスドールのライブ「ダンスサミット」でも定番のダンスパフォーマンス曲として採用されていました。
[Remix]
King & Kong D'Jungle Girlsの「Boom Boom Dollar (Red Monster Mix)」をはじめリミックスを多数手掛けている。
- INTO THE NIGHT / MICHAEL FORTUNATI
- SOFT TIME / SOPHIE
- THE MAGIC FRIEND / 2 UNLIMITED
- HOT LOVE & EMOTION / VIRGINELLE
日本のアーティストではWink、MATAHARI、TWO-MIXなどのリミックスを担当。
[NON-STOP MIX]
- THAT’S EUROBEAT シリーズ
- EUROBEAT FLASH シリーズ
- NON-STOP HOUSE REVOLUTION シリーズ
- Juliana's Tokyo Legend
挙げるとキリがないので興味がある方はDiscogsで調べてみてほしい。
MSTとTPD
前フリがかなり長くなってしまいましたがやっと本題。初代東京パフォーマンス・ドールとして発売された1stアルバム「Cha-DANCE Party Vol.1」でのクレジットからMSTが手掛けたアレンジは以下の通り
2:編/T.Tashiro-MST 3:編/T.Tashiro-MST 5:編/T.Tashiro-MST 10:編/T.Tashiro-MST 11:編/T.Tashiro-MST 12:編/T.Tashiro-MST 13: 編/T.Tashiro-MST 15:編/T.Tashiro-MST
MSTの中心メンバー・タシロタカヒロ氏が東京パフォーマンスドールの多数のアレンジを手掛けることとなる。
TVアニメ「CITY HUNTER」のサントラにRed Monster名義で収録されていた「JUST LIKE MGIC」を木原さとみ・篠原涼子・川村知砂によるユニット「ゴルビーズ」名義でカバーし、Cha-DANCEレーベル初となるシングルCDとしてリリース。
以降「東京パフォーマンスドール」名義のオリジナルアルバム+リミックスアルバムのすべての作品においてクレジットされている。
MSTは、その独特のサウンドで初期から最終アルバムまで一貫して起用されていたことが驚きです。初期の制作クリエイター「in Voice」が7thアルバムまで、そして「Thousand sketcheS」が8thアルバムまで関わっていたことを考えると、音楽性の変遷は明らかです。それにもかかわらず、MSTの個性的な音色がプロジェクトの終わりまで継続されたのは、予想外の展開でした。
東京パフォーマンスドールでの「MST」ベストトラック
完全に個人的・主観によるベスト作品を5曲ほどピックアップしてみました。
FAME|東京パフォーマンスドール|編曲: T.Tashiro-MST
東京パフォーマンスドールの3rdアルバム「Cha-DANCE Party Vol.3」のオープニング曲は、私にとって特別な思い出がある一曲です。この曲を初めて耳にした時の感動は、今でも鮮明に覚えています。もし、この曲でなければ、東京パフォーマンスドールへの愛着はこんなに深まっただろうかと思います。
この曲の原点は、アイリーン・キャラが1980年に公開された映画「フェーム」で歌った主題歌です。日本では、同じ年にピンク・レディーが「リメンバー (フェーム)」としてカバーし、シングルとしてリリースされました。
この楽曲は7人のフロントメンバーがそれぞれソロパートを持ち、メンバーの位置が明確になるようなミックスが施されています。初めてこの曲を聴く方には、ぜひイヤホンやヘッドフォンを使って、その魅力を存分に感じていただきたいです。
1番 : 米光(R) → 穴井(L) → 八木田(R) → 市井(L)
2番 : 川村(L) → 篠原(R) → 木原(C) → 木原+米光
CATCH!!|東京パフォーマンスドール|編曲: NSR / T.Tashiro-MST
東京パフォーマンスドールのシングルにおけるNSR(斉藤茂人・岡田慎太郎)の作曲とNSR+MSTの編曲は、そのアイドルらしからぬ音楽性が特筆に値すると思います。
インターネット上ではNSRに関する情報が少ないものの、彼らがDJチームであったという記憶があります。また、この曲は「デステクノ」というジャンルで紹介されていたことが印象的です。
アイドルの楽曲とは思えないほどのバックトラックで、木原と米光はソロパートがなくツインボーカルという構成に篠原・川村が加わり、さらに転調時にはViVA!(穴井・市井・八木田)のソロパートが挿入されるという、東京パフォーマンスドールのシングルとしては珍しいパート割りが施されています。
このシングルのリリース時期は、個人的にも最も「キテる」時期だったと感じています。
ファンタジー|ゴルビーズ&米光美保|編曲: T.Tashiro-MST
3rdアルバム「Cha-DANCE Party Vol.3」に収録されたこの楽曲はEarth, Wind & Fireのヒット曲「宇宙のファンタジー」のカバー。
このトラックは、木原さとみ、原宿ジェンヌ(篠原涼子と川村知砂)、そして米光美保が参加し、打ち込みサウンドで新たな息吹を吹き込んでいます。米光の透明感のある伸びやかなソロパートで幕を開け、原宿ジェンヌの力強いコーラス、米光の洗練されたフェイクで華麗に締めくくられます。また、木原の個性的なボーカルが際立つ、印象深い一曲です。
日本国内では、フォーリーブスや渋谷哲平も「宇宙のファンタジー」というタイトルでこの曲をカバーしています。
DO IT!!|川村知砂|作曲・編曲: T.Tashiro-MST
フロントメンバー7名のソロアルバム同時リリース作品「CHISA from Tokyo Performance Doll」に収録されているこの楽曲は、まさに90年代の打ち込みダンスサウンドを象徴しています。
川村の無機質でラップ調のボーカルが、そのサウンドと見事に融合しているナンバーです。
東京パフォーマンスドールの初期から参加しているクリエイターのin Voiceが手掛けたこの楽曲は、MSTとの初めての共作だったと記憶しています。そして、その後にはin Voiceによるアレンジバージョンも発表されました。
FIRE|TPD DASH!! (島津志穂)|作曲・編曲: T.Tashiro-MST
東京パフォーマンスドールのライブメンバーTPD DASH!!による2ndアルバム「[Just]FINE ~Cha-DANCE Party Vol.8」に収録されている島津志穂によるソロナンバー。
ひとことで言うならば「ジュリアナテクノ」である。90年代半ば以降になるとさほど珍しくもなくなるのだが、この当時にここまで振り切っているアイドルテクノは稀だったと思う。